笑顔の花


新緑がまぶしい季節になりました。まわりの山々はブロッコリーのように緑がもりもりと膨らみ、田んぼはひと晩中、蛙の合唱で大変な騒ぎになっていますが、猫髭うたたね舍も、3月中旬、大家族で大いに賑わったのでした。
実は、横浜の両親、湘南の姉、姪2人の計5人が、揃って滞在していたのです。あの時期、どうなるかわからない不安をかかえて神奈川にいるよりは、山口でのんびり過ごしてもらったほうが良いと考え、私が無理矢理呼び寄せたのでした。
来るまでは腰が重かったものの、いざ来てみれば、みんな海の幸や新鮮な野菜に大満足。普通に外で遊べることで、大はしゃぎしている姪っこたちを見て、複雑な思いにかられました。
ふと気付けば、実家と同じ様に母が台所を切り盛りし、ご飯の時間になれば、普段は大きい丸テーブルが、やけに狭く感じるほどの品数豊富なお皿が、大小の笑顔と一緒に勢揃い。場所は変われど、その光景は、横浜の実家に大集合している時と少しも変わらないのでした。
一日に洗濯機を何度も回し、夜は布団で足の踏み場もないという、生活と肉親に密着した、創作とはほど遠い2週間でしたが、とにかく、みんなよく笑い、よく食べ、よく騒いだのでした。ご近所さんも、いつも遊びに来る猫やイタチも、びっくりしていたに違いありません。
そして今、くっきり、はっきりと、わかるのです。何よりも大切なものは、育った街の横浜でも、20年以上住んだ実家でもない。新たにみつけた最高の住処である湯田温泉でもない。あたりまえの家族の笑顔。そうです。「人」そのものなのです。
もしも何かが起こったら……。私は迷わず大切な人を連れて、まずは安全な場所に逃げるでしょう。どこに行っても、どんな場所でも、元気でいさえすれば、いずれ必ず、笑顔の花は咲くのですから。