キリギリス

数年前、「キリギリス」という歌がうまれた。
「お金、大丈夫なの?」という母のひとことが
……なぜだろう
あの秋、体のふかいところにいやに染みてきて、
動けなくなった。
ぬくぬくと育ててもらって
それなのに、社会から外れたところで歌をうたいはじめ
いい歳になってもそれを続け
相変わらずひとり。
こうして親に心配をかけている。
冬へ続くひんやりした空気も手伝って
自分が妙に情けなかった。
普通の道を選んでいても、
子供はいくつになっても子供だろうから、
どっちにしても気がかりだろう…
でもね。
これで良かったんだろうか。
……振り返ってみても、答えはなかった。
ただ、いつも、あったかいゴハンが待っていた、
その光景ばかりが思い出された。