飲泉療法

大分県の山奥に行って来ました。いたって健康な私ですが、旅は道連れ世は情け、ひょんなきっかけで、飲泉療法を体験することになったのです。
江戸時代から続く、ひなびた湯治場で過ごした四日間。そこに集うのは、おじいちゃん、おばあちゃんばかり。皆、人生のはるか先輩の方々です。
まだ真っ暗な、朝4時半。屋外の飲泉場に、一人、また一人、と人影が現れます。あやしげな形をした壷の中にこんこんと湧き出る泉水を柄杓で、各々、コップへ汲んで、とにかく飲みまくり、そして、さりげなく、かつ小走りでトイレへ消えてゆきます。
これを繰り返して、飲んだ水の合計が二升に達する頃、トイレで出るのは、お水だけになります。体内を徹底的に掃除することで、江戸、明治、大正、昭和、平成…多くの人々は病を治してきたわけです。消化器系疾患、胃潰瘍などに効くのは勿論、腸のポリープや結石が消えたりすることもあるそうです。
私も先輩方を真似て、お水をしこたま飲んでは排水する作業にいそしみ、身体の不思議を実感したわけですが、その話を後日友人にしたところ、彼女がポツリ。「デトックスかぁ、いいなぁ、私も綺麗になりたい」。
デトックス?あ、そうか、これって正真正銘のデトックスじゃん。言われるまで、全く気付きませんでした。でも、その言葉には、美容とかダイエットとか、「最近の女子」的なイメージが浮かびます。
夜明け前、月明かりのもと、お年寄りが集う光景。源泉部に祀られた、薬師如来と明神さま。昭和初期に書かれたらしき、薄汚れた効能の看板。トイレに通った後、ゆっくり浸かる褐色の温泉。畳部屋の湿った独特のにおい。玄関には、緑に囲まれてにっこり笑うタヌキの信楽焼
湯治場は、情緒や風情の数十倍、わびと さびが 満ちていました。